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2009年07月23日

黒猫のタンゴ

黒猫のタンゴ


〈 なんで、こんなところにネコが…  〉

秋の気配が日ごとに深まる日曜日の朝、
男性は、日の出がずいぶん遅くなったと思いながら
自宅近くの駅に行った。
その駅は立体高架構造になっており、まず、
エスカレーターで改札口まで上がる必要があり、
さらに改札を通過してからプラットホームまで、
もういちどエスカレーターか階段で上の階に
上がらなければならなかった。

そして、駅に到着した男性は駅、高架下一階の
連絡通路で、ほとんど黒猫なのだが、唯一、
鼻の横に白い毛が混じっているネコに遭遇した。

もちろん男性は、日曜日の早朝、そこの駅にネコが
いることにものすごく違和感を覚えたが、だからと
いって自分には関係のないことだとも思ったので、
そのままエスカレーターに乗って改札口まで行き、
そして、時刻表を確認してから目的地方向の
プラットホームに上がった。


ところで、男性の外出目的は婚約者と会うため
なのだが、彼女が指定してきた時間は日曜日の
ランチタイムで、場所は彼女の自宅の最寄り駅だった。

〈 あーあ、せっかくの日曜日なのに昼メシかよ。
  なんか、まずい雰囲気だよな…        〉

男性はうすうす感じていた。彼女とは、もうすでに
結納も済ませて指輪も交換済みなのだが、なぜか、
式の日取りなど具体的な日程が固まってくるにつれて
彼女の態度が硬直してきていることを… 
だが、時間がその歩調をゆるめてくれることなど
絶対になく、結婚式の日取りは着実に近づいてきていた。

〈 やっぱ、見合い結婚はダメだな…  
  お互い、妥協の産物だしな…         〉


……続きです

彼女の自宅はとなりの県にある。そして、そこまでは
高速道路で1時間強ぐらいなのだが、電車でいくと
乗り継ぎが悪く2時間以上かかる。
だが、「今日の雰囲気だと間違いなく車が必要ない」
と、思った男性は、少し早起きして電車で出かけること
にした。

男性は電車に乗った。だが、その車両はたまたま
特急電車の通過待ちをしており、日曜日の早朝のため
車内はがらがらで乗客は15人ぐらいしかいなく、
男性は、しばらくは発車しそうにもないその車内で、
今日、彼女とどんな話の展開になるのかをぼーっと
考えていた。

〈 あーあ、この半年、時間のムダだった… 〉
〈 悩むぐらいならさっさと断ってこいって、 〉
〈 半年間に断った合コン、もったいない… 〉



「 おい、あのネコ、なに? 」
「 ほんとだ。なんで、こんなところに? 」

その時、突然聞こえてきた会話によって男性は
われにかえった。その会話の主は電車入り口付近
にいた10代のカップルで、おそらく一晩中遊んで
これから朝帰りするのだろう。だが、どうも帰るのは
男の子だけのようで、相手の女の子は電車には
乗らず、ちょうど入り口をはさんで今朝の別れを
惜しんでいた。

そして、男性も反射的に車外、プラットホームに
目をやると、そこには、まさしくさっき一階の
連絡通路で見た「98%黒猫」がいた。

〈 え、うそだろ! ここ、確か3階…だったよな、〉

だが、その黒猫はみんなの関心や疑問などいっさい
お構いなしで、さらに入り口付近のカップルの足元を
かすめるようにして、とうとう車内に乗り込んできた。

[ ???????????      ]

男性を含む、車内にいた全員の乗客は黒猫に
釘付けになった。
だが、それと同時に車内の雰囲気は
「 面倒にかかわりたくない 」を感じさせる空気に
急変し、誰もが黒猫に近寄ろうともしなかった。
そして、そのようにものすごく変な緊張感が漂う車内で、
なぜか黒猫は、少しずつ男性のもとに近づいてきた。

〈 ちょ、ちょっと、こっちに来るなって、 〉

だが、男性の願いも虚しく、黒猫は男性の足元まで
来ると、なんと、男性の座っているベンチ座席の横に
ひょいと飛び乗った。

「 ちょっと、待て、俺の猫じゃない! 」

思わず叫ぶ男性。そして、その瞬間、車内は爆笑の渦。
だが男性は、この場での自分の窮地を収束させるために、
思考をフル回転させた。

まず、その黒猫を抱きかかえて、それから入り口付近に
いたカップルのところに行き、そして男の子に聞いた。

「 ねえ、彼女、いっしょに帰らないよね?
  ここの子? 」
「 あっ、はい、そうですけど…  」

次に男性は、女の子のほうに向かって、

「 ねえ、この子、たぶん迷いネコだから、このまま
  電車で行っちゃうとまずいよねー、 それで、
  わるいけど、この電車が出たら、この子、
  駅の外ではなしてよ、 」
「 えっ、えー、いいですけど…  」
「 じゃ、おねがいね……   」





婚約者との話を終えて、来た時より指輪の分だけ
荷物を増やして帰路につく男性。

〈 やっぱり婚約解消か…  でも、かえって
  さっぱりしたな。 このまま、お互いが
  煮えきれないまま結婚したって、先では
  長続きしないのが見えてるし… 〉   

〈 だけど、朝のネコ、あれ、いったいなんだっただろ、
  なにかのお告げ… それにしてもリアルすぎる… 〉


どうやら男性の思考は、婚約解消したことより、
「日曜日の朝にまとわりつかれた黒猫」のことで
完全に占領されているようだ。











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posted by jekugun at 23:25| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記
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